「福沢諭吉の真実 士魂」 渡辺 利夫

「福沢諭吉の真実 士魂」 渡辺 利夫


福沢諭吉の真実 士魂

福沢諭吉については、大学時代はあまりいい印象を持っておらず、著書もほとんど読んだことがなかった。

司馬遼太郎の本などを読んでいると幕末のヒーローという形で、坂本龍馬などの活躍が描かれているので、幕府を倒し新しい時代を作るために命を懸けた志士たちに憧れを抱いていたわけである。福沢諭吉はそこにおいては時代の傍観者という気がして、冷めた人物であるという勝手な評価をしていたのである。

大学院に入ってから、修士論文を書く際に、福沢諭吉の文献を少し調べる機会があった。そこから、今まで読んだことがなかった福沢の著書を少しずつ読み始めたのである。最初に読んだのは「福翁自伝」である。自らの手による伝記的著書で、内容が非常に面白く、私の福沢諭吉に対する意識が大きく変わったことを憶えている。

それからは様々な著書を読みながら、福沢の本質について考えていた。一般には確かに文明開化論者、啓蒙主義者など、西欧の文明を日本に移入し、文明開化の推進を行った人物なのだが、30歳代の時に「丁丑公論」や「やせ我慢の説」「脱亜論」などの諸説に触れて、どうもこの人は一筋縄ではいかない人だと思うようになった。

そこから福沢諭吉に関する本を大量に読むようになって、著作集やあまり出回っていない伝記的な著書も購入しては読み続け、ようやくその本質が見えるようになってきたのである。福沢諭吉について、「しなやかな日本精神」を体現した人である、という評価をしている人がいたが、まさにそれは私の実感としても、その通りだと思う。

また、この著書「福沢諭吉の真実 士魂」においては、福沢の本心というものがどこにあるのかということが、福沢の著書を根拠にまとめられていて、納得のいくものであった。福沢諭吉はまさに「士魂」を有する思想家であり、その重要性をよく理解していた人物である。それがなければ日本の文明化も独立もないことを知っていたのだ。

福沢はナショナリズムを重要なものだと考え、国の独立を第一に考えていた人物である。そのために必要なのが文明であり、文明は国家の独立のための手段であるという。福沢諭吉の著書をしっかりと読むと、そこには健全なナショナリズムと柔軟なプラグマティズム、そして厳格なリアリズムを読み取ることができる。

日本が置かれた当時の国際環境と、現在のそれとはやや異なる面もあるが、日本が実は真の独立を手に入れるためには、明治時代の当時、福沢が主張していた様々な外交上の対応や、国民の気風が必要であることがわかる。もし、現在福沢諭吉が生きていたとしたら、当時と同じような論陣を張り、同じような内容の論説を国民に強く訴えかけているのではないかと思える。

福沢諭吉に関わる本は、これまでずいぶん読んできたつもりでいたが、古本屋などを巡っても、まだ読んだことのない本が必ず見つかるもので、関連する様々な著書がある。その中でも福沢の著書を正しく読んで、そのまま正確に理解し、論述されている本はあまり多くない。

多くは、自分の福沢像が最初にあって、自分のイメージに合わせて書かれた本が多いために、誤解が生じているのである。その点、この著者は福沢の著書の原文に忠実な理解を行っており、重要な点を多く読み取ることができるだろう。

福沢諭吉の著書の読み方は、人それぞれかもしれないが、福沢が残した現代への教訓は今でも生きており、有効である。それを素直に読み解いて、日本の真なる文明立国をなす仕事は私たちに託されていると言っていい。

福沢諭吉といえば、一万円札の肖像でしか知らない学生がいたら、思想家としての福沢諭吉に是非触れて欲しいものである。慶應義塾大学の学生はもちろんだが、若い世代にもっと福沢諭吉の思想を学び、深く知って欲しいと思う。実に柔軟で、バランスの取れた、そして決して現実から離れることがない見識というものを学ぶことができるはずだ。人に対する理解力、社会に対する理解力、そして国家に対する理解力が高まることは間違いない。

(神保町の古本屋で購入 500円)

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投稿者:

山道 清和

日本の未来への発展と繁栄のために、日本の学生には自分から学び、考え、自分の意見を持つことのできる人材になって欲しいと心から願っています。就職や公務員試験に関する相談も受け付けています。遠慮なくどうぞ。

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