11 個性を湧出させる力
私がフリーターだった頃、無口で暗くて、勉強のできない生徒の家庭教師をしたことがありました。
私がアルバイトをしていた塾で学ぶ生徒だったのですが、あまりにも周りと打ち解けず、勉強も全くやらないので、どんな先生も手を焼いていたのです。また、友達もおらず、負のオーラを身にまとっていて、誰も近づけない雰囲気を出している生徒でした。
ある日、その生徒のお母さんから家庭教師を頼まれました。
フリーターで月曜から日曜まで働いていた私は、毎日へとへとで余裕がなく、断ることにしたのですが、どうしてもと言われて土曜日の夜に2時間、その生徒の家庭教師をやることになったのです。
この土曜日の夜は、私が唯一、仕事のない時間帯でした。
数学と英語をやりましたが、数学はあまりの基礎学力のなさに、すでに中3だったことを考え、間に合わないと判断して、数学よりは嫌いでない「英語」だけを2時間ひたすらやり続けました。
英語はそのおかげで多少できるようになり、その生徒はある私立高校に合格しました。
それから2年の後。
私の部屋の電話がなり、電話に出ると、かけてきたのは高校生となったその生徒でした。あまりの声の明るさと、突然だったので、思い出すのに少し時間がかかったほどです。
その生徒は「先生、英語のテストで学年で1番になったよ」と、誇らしげに私に言うのです。
あのころの彼の姿からは全く想像だにできない話でした。
英語だけをひたすらやり続けてよかった、と思いました。彼はそれによって自信をつけて、高校でもそれを基礎にして努力をしたのでしょう。
たった、ひとつのことでも、人間は自信を持つことができれば、おのずと自分自身で成長していくことができるのです。
教育の要諦は、実は自信をつけさせることなんだと思いました。それによって歯車が回り出し、自信に満ちた彼の個性が姿を現したのだと思います。
まるで人格が変わったかのようなその生徒の様子は、実はその生徒の本当の姿だったんだと感じたのです。
「自信」というのは、人間の輝ける個性を湧出させる原動力なのです。
自信を失わないこと、自信を失わせないこと。
この時ほどその大切さが身にしみた瞬間はありませんでした。それには、途中は厳しくても、ある程度の結果を出させる必要もあります。
私が彼に教えていた当時は、彼の自信にあふれた本当の個性を見ることはできなかったのですが、2年後、電話を通してそれを見ることができました。
人間というのは本当にわからないものだと思います。環境やきっかけや出会い、様々な要因で無限の変化の可能性があるのです。この無限というのは、どのように変わっていくかわからない。多種多様の変化の可能性という意味です。
しかし、自信というものが、その大きな変化のよりどころとなることは間違いのないことです。
個性的に、自分らしく生きることができる人間は、やはりその根底に「自信」を有しているのです。
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