1人でラブホテルに泊まった夜(涙)
間奏曲―フリーターの時代―その8
便利屋の仕事をしているときは、仕事によっては夜遅くなってしまうことがあり、終電に間に合わないことがあった。
めったにないことなのだが、その日もタイヤ工場での積み込みの仕事が終わり、普段ならそのまますぐに帰るところ、便利屋の社長が「ちょっとだけ飲んで帰ろう」というのに乗せられて、居酒屋に行った。便利屋の社長はお酒が大好きで、仕事が終わったら毎日飲むのを楽しみにしている。
私は全く逆で、お酒はほとんど飲めないし、特に好きでもない。本を読んでいるのが一番幸せという変人だったから、お酒を飲むこと自体は付き合い以外ではあまり積極的ではなかった。
ただ、お酒が好きな人の気持ちもわからなくはなく(それは私が本を好きだというのとそれほど変わらないと思う)、少しならと付き合うことはよくあったのだ。
その日はなんだか居酒屋で色々と注文して、いつもより長居してしまった。気がついたら終電の時間に間に合わない時刻になっていたのである。
翌日は午前中から用事があったので、駅の近くで泊まれる場所を探したがなかなかない。たった1件だけ泊まれそうな場所が見つかった。
便利屋の社長は「やまちゃん、もうここでいいよ」といって、怪しいラブホテルを指さして、ここで寝て帰りなという。私はもう夜も遅かったし、体も疲れていて、早く眠りたかったから、もう正直どうでもよかった。
社長がラブホテルに入っていって、一人でも大丈夫かを確認し(大丈夫に決まってるんだが)宿泊料を支払ってくれて、私はラブホテルの受付のおばさんに案内されて、そこで一人で泊まることになった。
部屋の作りや明かりが艶めかしい。ベッドもやたらに大きいし(まあそれはそうだけど)、さっさと寝ようと思ったのに全く寝付けない。なんとも怪しい雰囲気の中で、結局ほとんど寝れなくて、朝は早々とラブホテルを後にして帰ってきたことがあった。
つくづく、この便利屋のアルバイトは、私に希少な経験をさせてくれるものであった。話のネタには全く困ることのないアルバイトだ。
たぶんそこでやったことや経験を書けば、一冊の本になるだろう。
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