進学?
加藤先生からの提案、というよりお誘いは意外なものだった。
ゼミの主要テーマになっていた「法社会学」の本を執筆した明治大学の教授が、大学院のゼミ生を探しているので良い学生がいたら大学院に送ってほしい、と加藤先生に依頼していたというのだった。
加藤先生は、私に目をつけて同じ東京に行くなら「大学院」に進学してはどうか、と勧めたのである。
私はそのような方向は考えたこともなく、基本的に「学者というのは世間知らずで世の中の問題を解決する力を持たない」と考えていた。
私には、大学という象牙の塔に籠もって生きるより、社会に出て多くの人々の現実的な問題や悩みを救いたいという気持ちがあった。その観点からいうと法律家の方がまだ、それに近かっただろう。
その気持ちをストレートに加藤先生に伝えた。
今考えれば非常に失礼なことをしたと思う。
その加藤先生とて「学者」なのである。私は若気の至りで、そのような配慮さえも欠けていた。
先生は優しくうなずいて、
「でも自分の好きな分野の研究をして、それを一生の仕事、ライフワークにできることもとても幸せなことだと思うよ」と言われた。
私の心は揺れた。明治大学の栗本教授というのは、そのころたくさんの著書を出して、テレビでもしばしば発言していた有名な人だった。
その人の下で勉強してみたい、という気持ちがないわけはない(著書はほぼすべて読んでいた)。
「急な話なので少し考えさせてください」
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