6人の講演会(1)
大学2年時の秋。
前期試験が終わり閑散とした大学のキャンパスの中をNと一緒に歩いていた。
そして、学生に対する様々な連絡などが掲示される掲示板を見ていた(当時の大学は学生に対する連絡手段はこの掲示板のみだった。この掲示板の連絡を見落とすと、大事な情報を受け取れず、留年になることもあった。当時の大学は今のように学生に優しくなく、掲示板を見ずに情報を知らないことはその学生の自己責任だったのだ)。
掲示板に「学生諸君に訴える」というような演題で東洋史のある教授が講演会をやるという知らせ。
私達は試験休みに入って時間は十分あったので、その講演会に出かけてみることにした。その日は日時と場所を確認して何の期待もせずに帰宅した。
そして、講演会当日。
午後1時から始まるということで、学生食堂で昼食をとり、10分ほど前に講演会場である大教室に向かった(学生が300人以上も入るような大きな教室だ)。
たくさんの学生が集まっているだろうから、ぎりぎりに行くのはまずいだろうと思った。
大教室は前方に2か所の入り口があり、私達は右側の入り口から入った。
Nが先に入り、私はその後に続いた。
教室に入ったが教室には誰もいない。場所を間違えたのだ。
しかしNはどんどん教室の後方に進んでいく。私はどうしたのだろうと思いながら後に続いた。
左後方の演台に人がいるのがわかった。
教室はここで間違いがない。演台にいる人が東洋史の担当の教授だ。
しかし、開始時間10分前なのに教室には私達二人以外誰も来ていない。
私達がどんどん後ろのほうに歩いていくと、演台の方向から鋭く大きな声が飛んできた。
「前に来なさい」その声に私とNははじめて振り返った。
頭髪の薄い、初老の教授が演台のところに座っていた。
そして、その少し左後方に教授と同じ年齢くらいの婦人がいる。
一体誰だろう。
私達はその有無を言わせない力強い声に従い、一番前の席に座った。
教授は私達に学部と名前を訊かれた。
そうしているうちに男女1人ずつの学生が教室に入ってきた。
教授は私達にしたのと同じように声をかけられ、前の席にその二人を座らせた。始まりの時刻になった。
いっぱいであればおそらくは300人以上も入るであろう大教室で、講演者を含め、たった6人での講演会が始まった。
試験は終わり、大学生は休みにはいっている。しかし学生用の掲示板に大きく貼り出してあった講演会の案内をみて参加した学生はわずか4人。当時の大学生の無関心ぶりを象徴してはいるが・・・・・それでも、あまりにも。
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