難しい関係
結局、長い時間彼女の気持ちを探ったが、非常に難しいことになってしまった。というより、彼女も私との距離をどう表現していいのかわからなかったのではないかと思う。
私と「彼氏彼女の関係」にはならず、関係は今まで通りなのだが、彼女は私の気持ちを十分に汲んでいて、かなり親しい男女(そして先輩と後輩)という関係を私との間に求めた。
このような微妙な関係が私の気持ちを不安定なものにしてしまったことはいうまでもない。恋愛感情とはいつもそうだ。
彼女は多くの後輩達のなかでもとりわけ私に近い関係で、その気になれば私を独占できるのだが、私は彼女にそれを要求できない、という距離感がおそらくこの時の状況だっただろうか(後に彼女はこのことを「私はずるいことをしていた」と表現していた)。
私はこのとき以前読んだ「道ありき」という本を思い出していた。
せっかく自分が好きになった相手だ。その相手の成長や幸福をいつも願ってそれを具体化する行動をとろう(たぶん難しいが頑張ろう)。
私はやがては東京に出ていくのだから、彼女の中に何かを残そうと思った。
私の中には異性との関わり方として、自分の理想となるイメージがこのときに明確に存在していた。
「道ありき」のなかで出てくる男性(前川正)の、著者である三浦綾子に対する関わり方。それが自分の理想だったのである。
理想を描き、現実の中でそれを実現させようと努力するときに、人間が大きく成長するものであることを私はこの恋愛で学ぶのである。
自分が非常に難しい立場にいることを自分ではよくわかっていた。
自分の醜さとの戦いが始まった。
彼女はそんな私の内面をよそに、今までと変わらない日常を送っていて、いつも気さくに私の部屋を訪ねてきてくれた。
私はそれでいいのだ、と思ったし、きっとそれでよかったのだ。
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