進路決定
あっという間に数日が過ぎた。
合格発表は大学院の校舎の1階に貼り出されるはずだった。
朝から都心に向かった。この段階でだめだったらどうしようということはあまり考えなかった。
校舎に入ると合格者の番号が貼り出されているのが見えた。
そもそも受験者がそれほど多くないためか、掲示の前には誰もいなかった。閑散としている。博士前期課程(修士課程)の民事法学専攻という分野での合格者を見る。
そこにはたった一つだけ番号があった。定員数だけ合格者が出るわけではないことをはじめて知った。
私の番号だ。
その番号を食い入るように見つめた。間違いない。
すぐに校舎の外に出た。公衆電話を探して。
ゼミの教授に第一に電話すべきだったが、私が回したダイヤルは彼女の電話番号。彼女も今日の日のことは当然知っていて電話口で待っていたのだろう。すぐに電話に出た。
「すごい、すごい。うん。よかったね。おめでとう」本当に嬉しそうに彼女は何度もこう言った。その時の声のトーンや言葉まで、今でも鮮明に憶えている(その思い出の電話ボックスはもう今はないのだけれど)。
その後ゼミの加藤先生にも電話。先生は喜んでくれたが、私が合格することは当然だと思っていたような雰囲気で「うん、そうだよね」と言っていた。
その後に両親に電話をした。また心配と経済的な負担をかけてしまうことが申し訳なかったが、自分のことのように喜んでくれた。
卒業後の進路はこれで決まったが、私は職業を手にしたわけではなかった。先延ばししたともいえる(実際にはこの後厳しい現実が待っていたわけだ)。
また、学生という身分とはうらはらにどうなるかわからない不安定な場所に身をおいたということにもなる。
当時、文科系の学生は大学の新卒よりも大学院を出ているほうが就職は不利になると言われていた。それはそうだろう。
実際に、大学院に進学することで私の人生はますます方向がわからなくなったのである。
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