読書の黎明
この本を読んでみて、といって親友のNに薦められたのが
「竜馬がゆく」 司馬遼太郎著 であった。
私はもともと本を読むのは嫌いではなく、高校時代から多少の本は読んでいたが、受験勉強の合間をぬっての読書だったのでじっくり読むということが少なかったのである。 この本は大学生の必読の書ではないかと思う(いわゆる司馬史観というものや明治維新の歴史的評価は別にして、そして物語としての多少の美化は別としてもである。私自身はこの後明治維新の研究をする中で、必ずしも明治維新がそれほど美化されるようなものではないことを知り、坂本龍馬などに対する評価も変わった)。
幕末から明治維新のころは日本史上最も 若者が輝いていた時代だ、と私は思う。 20代や30代の若者たちが命をかけて理想実現のために立ち上がり、その多くが志半ばで命を落としていった時代。
今このような恵まれた時代のほんの100年前(当時)に、新しい国を作るために命を散 らした若者が数多くいたことを忘れたくはないものだ(それは先の大戦も同じことだ)。
私はこの本を1日1冊のペースで読んで8日で読み終えた。最初の1冊は借りた本ではあったが、結局自分で全て買うことにした。毎日毎日1冊ずつ、大学の生協の本屋で購入していたので、生協のレジのお姉さんが「毎日1冊ずつ読んでるの?早いね」 と声をかけてくれたのを今でもよく憶えている。
この本のおかげで、日本史の授業で学んでいた多くの歴史上の人物の名が、はじめて生きた知識となって私の中に流れ込んだ。 教科書では名前だけだった人物たちが、自分の中で躍動感をもって、動き始めたのだ。
大学で一生懸命に勉強しようと決意したのはこの本を読んだおかげだ。 この時、向学心に火がついた。
お金はあまりなかったが、せっせと本を買って読むようになった。 また大学での勉強も語学を中心に努力しようと思ったし、街にある古本屋などにも暇をみては通って、たくさんの本を購入するようになった。
本を読んでいるだけで幸せだ、という感覚がこの時期に培われたものとみえて、 それは今もずっと続いている。
自分の内的世界を大きく広げてくれたのが、読書であることだけは事実である。 出会いが人生を変えるというのは真実だ。人との出会い、本との出会い、その一つ一つは、実際には私たちが思う以上に価値のあるものだ。読書では実に多くの人と出会う。著者、本の中の主人公、登場人物。学びの宝庫である。そこからのささやかな影響を、いつも感じ取れる感性を、ずっと持ち続けていきたい。
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