日雇いの人々
神戸では日雇い労働者の人たちにまじってしばらく生活することにした。
休みは長い。そして私が泊まっていたホテルは一泊500円。長居ができた。20日間宿泊しても10000円。便利屋のアルバイト1日で稼げる金額だ。
毎日朝になるとそのホテルに宿泊(というより生活)している労働者はどこかに出かけていく。
その中にはしばらくすると戻ってきてまた部屋にこもる人もいれば、そのまま夕方まで戻らない人もいる。

仕事が割り振られるかどうかで、毎日の生活が決まるのだ。
私がそのホテルの狭いロビーで新聞を読んでいると、身なりのこぎれいなおじさんが話しかけてきた。
「どうしてこんな場所に泊まってるん?」「あんた学生やろ?」
そうして、この男性との会話が始まったわけだが、この人が多くの労働者に仕事を斡旋している人物らしいことがわかった。1泊2000円のテレビつきの部屋に泊まっている人物なのだ。
この人は私との会話の最中、フロントのおばさんにおもむろにコーヒーを二杯頼んで持ってこさせた。
私にご馳走してくれるというわけだ。
この人は、学生時代にきちんと勉強しとけとか、人に仕事を与えられるような人間にならないと、このホテルに泊まって毎日日々の仕事にもありつけない労働者のようになってしまうよ、そんな話を繰り返ししていた。
また学生として親の金で勉強できることは幸せなことで、それがどれほど恵まれているかここに住んでいる労働者を見れば分かるだろう、とも言っていた。
全てはその通りだった。
しかし、不遇をかこつという言葉があるように、必ずしも努力ではどうにもできないことがあって、ここで生活している人もいるはずだった。
ここには正社員として働く場所もなく、かろうじて毎日仕事の分け前にありつける可能性がある日雇いの仕事があるだけだ。
そこには危険なもの、汚いもの、きついもの、いわゆる3Kといわれる仕事ばかりが舞い込んでくる。そこで働くことで日銭を稼ぐのである。
そのおじさんが言うにはそうして稼いだ日銭のほとんどが、酒や娯楽に消えていくのだという。
貯金をするとかそれを元手に何か別のことをするという考えがない人がほとんどだというのだ。
まさしく彼らは「その日暮らし」をしていた。
私は滞在予定を引き伸ばして、もう少し神戸にいることに決めた。
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