年末年始も病院で働く
間奏曲―フリーターの時代―その18
虎の門病院の看護助手として、働いていて、本当に寂しい気持ちがしたのは、病院の年末年始だった。
病状が問題ない人は、年末年始には自宅に帰ることができる。しかし、もちろんそれがかなわない人もいる。
私は、看護助手を始めた当初は、年末年始は出勤せずに休んでいたが、次第に仕事を憶えて、一人でも何でもやれるようになると、通常の病院業務のない日にも出勤を頼まれるようになった。年末年始はまさにそのような時期だ。
年末になると、多くの患者さんが医者の許可をもらって自宅に帰り、そこで家族と年末年始を迎える。
私は東京に出てきて、特にフリーターになってからはほとんど実家の長崎に帰ることはなかった。どうせ東京にいるのだから、年末年始も病院で仕事をさせてもらおうと、自分から進んで年末年始は出勤することにした。
病院の職員休憩室で勉強もできるし、職員の食堂もやっているし、自宅で一人で正月を過ごすよりも、私にとっては意義があったからだ。
当然、一部の看護師さんや医者も出勤している。ここは誰が急変して、何が起こるかも全くわからない場所だからだ。
これまで、自分が実家に帰った時には、家族と当たり前のように過ごし、年末年始には一緒にテレビを観たり、初詣に行ったり、家族でおせち料理を食べたりという時間を過ごしていた。その同じ時に、病気を抱えて、ベッドに臥せっている人もいる。自宅にさえ帰ることができないのだ。
静まり返った病棟の一部では、静かに年末年始を一人で迎える人もいる。そしてそれを見守る病院のスタッフもいる。
同じ時間帯を、まったく違う境涯で過ごす人々の違いは、一体何なんだろうか。しかし、自分はできれば、ずっとこのような人々を見守る立場でいたいものだと思った。
私は自分の健康を過信していたが、それは壊れなければなかなかわからないことなのかもしれない。
通常バタバタと動き回っている病棟が静かになる年末年始。そこでも病気と闘い続ける多くの患者さんがいる。
「年末年始に仕事ができるなんて、幸せなことじゃないか」と、心から思った。
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