一次試験の突破
間奏曲―フリーターの時代―その31
私は専門学校の講師としての採用試験を受けることにした。
就職のために、私が準備していたことはほとんど何もなかった。少なくとも就職活動に関する知識や情報はゼロに近かった。
しかし私には「そのとき」が来ていたのだと思う。
就職に必要なのは「小手先のノウハウやテクニック」ではない。
最も大切なのは「マインドセット」=「心構え」だ。
私はこれに関しては、知らないうちに準備ができていたのだと思う。
アルバイト時代に「正社員のように」働いていたこと。そして「給料以上に」働いていたこと。
そうしながら「自分を見つめ、自分の考えを持っていた」こと。
アルバイト時代も「将来に備え勉強=自己投資していた」こと。
これが私の準備の全てだった。
そして、その準備ができている人に「職業」が与えられるのではないだろうか。
試験会場に行くと十数名の20代の若者が集まっていた。
学校のことに関して簡単な説明があった後、学校の紹介ビデオを観て、それから一次試験の筆記試験が行われた。
普通の教養試験だったのだが、自分としてはいまいちの出来で、これで落ちることもありうるだろうと思って、自分の勉強の足りなさを自覚させられた。
せっかくのチャンスだったのにもったいないことをしたと思い、次の就職先を探しながらまた毎日のアルバイトに励むことを決めた。
いつかは必ず自分にふさわしい就職先が見つかるはずだ。それまでは今までのように毎日の仕事を手を抜かずにやろう、そう思っていた。
自分には普通の教養、つまり試験に出るような教養の力が不足しているとも思ったので、また別の問題集を購入し勉強を開始することにした。
書類選考で落とされることも多々あったので、自分の常識力が不足しているのではないか、という不安もぬぐえない。どんなミスをしていても誰にチェックしてもらえるわけでもなく、一人でやっていたからだった。
病院のアルバイト先では職員になってはどうか、と同じ職場の先輩職員から勧められたが、自分にとっては一生の仕事にはならないだろうと思って、毎年アルバイトの身分を更新し続けていた。
あと何年このような形での仕事を続けていくことになるのか。
景気の悪化は続き、このまま30歳を迎えてしまったらもう就職するのは困難になるかもしれない、様々案思いや不安が交錯する。
あきらめてアルバイトに気持ちを戻していた時、郵送で通知が届いた。
「一次の試験に合格されましたので、二次の面接試験に進んでいただきたく・・・・」
冗談と思ったくらいだったが、通知には確かに合格の文字があった。実はこのときも私の中で多少の迷いがあった。
もし、この専門学校に採用されるようなことになったら、アルバイトをやめる旨の連絡をしておかなければならない。私にとっては病院のアルバイトは仕事に慣れてきて、人間関係もとても良好だったため、このままこの場にいつづけたい、という思いもあった。
しかし、いつまでもフリーターでいるわけにはいかない。このある種のフリーターの居心地の良さというのも、次のステップのためには妨げになることがある。
もし最終選考に残ったら、アルバイト先にその旨を告げようと決めた。
この専門学校の採用試験は、あと面接が2回行われるということだった。
約一週間後、最初の面接試験に挑戦することになり、私は再びスーツを着込んでその学校に出かけた。
自分の中にやはり「このままフリーターでいたい」という気持ちが存在していることに気がついた。
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