ゼミを決める
大学3年次も終わりに近づいてきた。
4年になると自分が卒業論文を書くためのゼミを選択しなければならなかった。このゼミの選択は重要で、どこのゼミに属するかによって4年次の大学生活が決まる。
憲法や民法、商法などのゼミは本当に人気が高かった。
その当時も地元で公務員試験を受験したいと希望する大学生は多く、ゼミの担当教官が試験委員を勤めているなどの事情もあり、試験に有利になるといううわさもあった(実際はほぼ関係なかっただろうけれど)。
私は自分が公務員試験をはじめとして、スーツを着て仕事をしているサラリーマンのイメージが全く湧かず、大学を卒業したら東京に出てアルバイトをしながら司法試験を目指そうと考えていた。
ただこの時期からすでに、法律の勉強そのものにもやや興味を失いつつあった。哲学や社会学、人類学など人文系の学問の面白さに惹かれていった(これが私がもともと持っていた指向性だったのだ)。
司法試験の勉強は続けていたが、読む本は全て人文科学の本ばかり。
歴史、哲学、人類学、文学。
実用的な勉強からは意識が離れていったのである。
司法試験のためにも、その科目に関係のあるゼミを専攻したほうがいいことはわかっていたが、興味の赴くままに「法社会学」というゼミを選択することに決めた。
このゼミを選んだのには理由があった。この頃、「現代思想」という雑誌を中心に様々な学者がテレビに出演したり、一般向けの本を書いたりして、ニューアカデミズムというものの風潮がまだ残っていた。その中で活躍していた教授の一人に、明治大学の栗本慎一郎という先生がいた。私はこの先生の本もたくさん読んでいて、かなりの興味をかきたてられていた。この先生はいろんな本を書いてはいたが、明治大学では法学部そして専攻は法社会学だったのだ。
そして鹿児島大学でこの先生のご友人であったのが加藤哲実先生で、この先生が栗本慎一郎編著の「法社会学」という本をゼミの指定教材にしていたことが大きな決め手になったのである。
きっとそのようなことに興味のある学生がこのゼミには集まっているだろうし、友人もできるかもしれない。
そう思った。
人気のあるゼミは定員をオーバーすれば抽選で決められるが、私の選んだゼミはそのような必要はなかったようで、すぐに入れてもらえることになった。
ゼミの初日、担当教官の研究室に指定された時間に顔を出した。
担当教官が待っていた。まだ時間が早いのか誰も来ていない。
「他の人はまだ来ていないんですか」
「いや、このゼミは今年は君だけだよ」
「・・・・・」
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