「若い読者のための哲学史」 ナイジェル・ウォートバン

「若い読者のための哲学史」 ナイジェル・ウォートバン


哲学史の本はこれまでたくさん読んできたが、多くの哲学者の思想を、これほど簡潔にかつ読みやすくまとめた本はなかったように思う。

哲学史と言っても、基本的には西洋哲学史なのだから、当然スタートはソクラテスやプラトンである。全部で40項目の内容で多くの哲学者の思想が、バトンタッチされるリレーのような形式で説明されている。

ちなみにギリシア哲学を、ソクラテスやプラトンを中心に考えない異色の哲学史としては、日下部吉信著 「ギリシア哲学30講 人類の原初の思索から」というのがある。聞いたこともない哲学者がたくさん出てきて、面白い本である。上下巻あるので、読み切るには多少気合がいるかもしれない。

話を、もとに戻そう。この本は、一人の哲学者のついての記述が7ページ程度ずつにまとめられていて読みやすくなっている。もちろん哲学者それぞれの思想の全てが取り上げられているわけではない。しかし、西洋哲学の大まかな流れをつかまえるには非常に良い本である。

このような本を読んで、気に入った、あるいは共感できる哲学者がいたら、是非本人の著書に触れてみて欲しい。

しかし、西洋哲学だけが哲学ではない。人間はどの時代もどの地域でも哲学していたのであって、人間に思考力がある限り、哲学は西洋の専売特許ではない。日本の思想や哲学も優れたものが多く、一読に値する哲学者(思想家)は山ほどもいる。

私は哲学書に関しては、勉強するという意識で読んだことはない。自分の思考空間が広がる感じがして心地よいのである。また、自分が考え事をして、もやもやしている部分を、見事に言語化してくれる場合もあり、すっきりとするのだ。そして、自分の考えをまとめるときのヒントや材料としても読んでいる。

私の場合はだから特定の思想家や哲学者に影響を受けたり、一人の哲学者を研究したりしようなどとは、全く思わない。すべては自分の生活のために、生きたり考えたりする材料として読んでいるのである。

もちろん、古代のギリシャ哲学や、ストア派の哲学、ドイツ観念論哲学などには共感を覚えるのだが、他の哲学者にも学ぶところは多く、全ての哲学者から何らかの影響は受けているはずだ。

結局色んな人の本を読む(特に思想として)ことは、自分の思考空間や言語空間を広げたり緻密にすることに役立つ。また、多くの観点を手に入れ、多元的、多角的な見方が可能になることも一つの目的である。私にとってはそれだけで十分なのだ。

その意味ではこのような概略的な書物が役に立つことも多い。本の題名にあるように「若い読者のための」本を意図しているのだから、学生には是非読んで欲しいものだ。思想の流れがわかるような書き方がされているし、思想の内容も極力難解な表現は避けられていると思う。

「哲学は学ぶのではなくするものだ」、という言葉があるように、このような本をきっかけに哲学する若者が増えるといいと思う。

人間の生は、結局自分なりの思想を形作るプロセスだ。思想とは、本当はその人自身だからである。

思考停止で物事を考えない人間が増えている昨今、このような本への需要がもっと高まってくれることを願って止まない。

(図書館で借りたので、0円)

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投稿者:

山道 清和

日本の未来への発展と繁栄のために、日本の学生には自分から学び、考え、自分の意見を持つことのできる人材になって欲しいと心から願っています。就職や公務員試験に関する相談も受け付けています。遠慮なくどうぞ。

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