「徳川家が見た 西郷隆盛の真実」徳川 宗英

「徳川家が見た 西郷隆盛の真実」徳川 宗英


徳川家が見た 西郷隆盛の真実

徳川家の末裔である著者による西郷隆盛論である。様々な資料やエピソードを示しながら、西郷隆盛の真実に迫ろうと書かれた本である。他の本の情報と並べてみて、はっきりとわかったことは西郷隆盛の下野のきっかけになった「征韓論」は現在間違って伝えられているという事実である。

西郷は韓国に対しては非常に友好的なかかわり方を希望しており、むしろ明治政府こそが韓国に対して上から目線の好戦的な関わりをしていたという事実だ。一般的には西郷が征韓論を唱え、大久保利通をはじめとして時の政府の指導者たちが、内政に注視すべきとしてこれを退けたことになっている。しかし、実際はそうではなかったことがこの本からほぼ明らかになる。

時の明治政府によって罠にかけられ、挑発されてしまい、西南戦争を起こしてしまった西郷の悲劇は、残念でならないが、本人も半分厭世的な投げやりな気持ちになって、この汚辱に満ちた世界から立ち去りたい欲求があったのではないかと思われてならない。

明治になってからというもの、政治家は華美を極めて(欧化政策のために必要な面もあったが)、江戸時代までに持っていた、貧しくとも質素な武士道精神はどこにいったのか、金と武力に訴えていくアングロサクソン民族の影響を強く受けて、日本人のもっていた美風を忘れてしまったのが、日本の近代の様々な悲劇につながっていると言えば、その通りかもしれない。

もし西郷が、明治政府の中心に立って、日本の在り方を決めることができる立場であったなら、その後の日本の歴史はどのように進み、日本の国の在り方はどのようなになっていたのだろうか。武士道を中心とした、貧しくとも質素で誇り高い国になっていたのかもしれない。

日本は戦後さらにアメリカ化されたが、実は明治維新のころから欧米のもっている悪しき風習に染まり、日本を失っていたのかもしれず、それに対して異を唱えていたのが、ほかならぬ西郷だったのではないかとも思える。昨今は明治維新に対しても公正な研究や評価がされるようになってきた。明治維新はそれほど素晴らしいと手放しで評価できるものではなかったことがわかる。

その意味では、下野した西郷が西南戦争に巻き込まれた結果、この日本国からいなくなってしまったことが本当に残念でならない。これにはしかし、おそらくは西郷本人の性格も影響していることであるから、時の政府や西郷に対抗していた政治勢力のせいにすることもできないように思う。西郷の力で西南戦争は止めることができただろうし、結果的にそこに身を投じてしまったのは西郷自身であることからも、そこが西郷の限界だったと言えば言えるのかもしれない。

鹿児島では評判のよくない大久保利通も、自分が責任をもって明治の日本国を創っていこうとしていたわけであるから、最後まで政府のありかたに責任を取らずに鹿児島に帰った西郷に対して、大きな不満があったに違いない。

大久保利通に関しては、その関わる本をこれまで何冊か読んできて、おおよそその人となりや判断の基準は理解できるようになったのだが、西郷隆盛のそれがなかなか理解できない理由がこの本を読んで逆に理解できた気がした。

それは、大久保利通が西郷隆盛について「情においては女みたいな人である」と述べていることが紹介されているからだ。西郷の理解しがたさは、この情による言動にあるのだろうと思うのである。矛盾があり一貫性がないように見えたり、時には強く、時には弱くも見えたりするあたりが、この幼い時から西郷を知る大久保の言葉から理解できるような気がしたのである。

この本には、徳川と島津の関係や、また西郷家と島津家の子孫の関係にも触れてあり、私がこれまで読んできた西郷隆盛に関する書物からは得られなかった情報や考察の多くを得ることができた。

歴史の真実や人物の真実は、奥が深くやはりなかなか決めつけられないものである。これからも鹿児島大学を卒業したよしみで、この薩摩藩出身の偉人の生涯や人物像は探求し続けたいものだと思う。知れば知るほど人間の奥深さや歴史の妙味を感じさせてくれる人物は、西郷以外にはなかなかいないものだからだ。その意味で、まだまだ無数にある西郷隆盛に関する本を読み続けていこうという意欲を与えてくれた本でもあった。

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投稿者:

山道 清和

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