「少年に語る」 松岡洋右
松岡洋右という人物の名前は、日本史の教科書では、日本が国連を脱退したときの日本の首席全権だった人物であることとして紹介されていることだろう。この本は、この人物が、小学生を相手に講演したときの講演録である。おそらくは松岡洋右は、国連を脱退し、日本を国際的に孤立せしめた人物として、評判が悪いかもしれない。しかし、それは戦後の自虐史観が生んだ、間違ったイメージである(もちろん毀誉褒貶はある)。
外交官としても優秀であり、愛国心と日本人としての誇りを持った日本精神の権化ともされる。そして国連の場で堂々と日本の立場を説明し、全世界に日本の国威を発揚したのである。松岡は、まだ人種差別が世界の趨勢だった当時「白人に対して絶対に平等権を主張しなければならない。こういう考えを私は捨てなかった」と述べている。日本は世界で初めて「人種差別の撤廃」を主張した国である。これによってむしろ欧米の国々からは白眼視され、警戒されたのである。
松岡洋右は「日本で一番大事なものは子供たちだ」と言っていたという。まさにその通りである。日本の宝は「子供たち」である。しかし、今の日本はどうだろうか。子供たちの未来を心から考えた政治や教育が行われているだろうか。決してそうだとは言えないだろう。日本をこれから背負っていく子供たちを、もっと大切にして厳しく優しく教育していかなければならない。
この本には、日本が日清戦争から日露戦争を経て、第一次世界大戦までの間で、世界に発言権を持ち影響力を有するまでになる話が語られている。その間に、日本人が国民としての数多くの艱難辛苦を経て努力し、働いてきた経緯が子供たちに伝えられている。このような語りかけは、子供たちに誇りと自信を与えたことだろう。
これを読むと、欧米の白人中心の世界にとって、有色人種であった日本人の世界での活躍は驚異でもあり、また脅威でもあったことがわかる。今の間違った歴史観から言えば、信じてもらえないかもしれないが、当時の日本は中国が欧米の国々から分割統治され、食い物にされることを防ごうと努力していたのである。日本が、日本の安寧のみならず、アジアの安穏を願っていたことも真実である。このあたりの経緯は、また別の書物で学んで欲しい。
この時代の日本と欧米の列強国との関係とは以下のようなものだったのだ。
「戦争をやる間(第一次世界大戦)は、連合軍側の最高会議というもので、日本は5大国の一つだと言うて、人(日本)をおだてあげて使うた。5大国の代表者が寄って、最高会議というものをやって、そうして戦争を続けた。これに日本も入っていたのであるが、戦争がすんで、パリで講和会議を開くということになったら、日本を5大国から蹴落としにかかろうとした」
つまり勇敢で戦争に強い日本をおだてあげて利用するだけ利用した後で、いざ、戦後のことを決める段階になったら日本外しをしようとした、ということである。これが欧米の日本に対する本当の姿勢であって、決して対等な国家として見做していなかったことだけは確かなことである。
そして、このような、ある種の人種差別が、後の大東亜戦争への布石となっているのである。日本は優れた理想と優れた国民を有する国家であったし、世界史的な規模でみても正しい主張や行動を行っている。ただ、善良なだけではそれをこの世界に実現できないのが国際社会の現実である。松岡はこの講演の中で、このようにも述べている。
「私はよくいうが、ただ善人というだけでは何にもならない。力がなければ駄目だ。善人でも力がなければ善を行うことができぬ。国も正しくなければならない。そしてその上に力がなければならない」
これが今も変わらない、国際社会の現実である。これは外交などに直接かかわり、海外での経験も多い人間でなければ容易にわからないことかもしれない。特に戦後の平和が当たり前の世界に育った国民にとってはこの現実的理解がなかなか得られない(だから安易な平和主義に走ってしまい、逆に危機を招くのである)。
この本では子供たちに「忠」と「孝」の重要性を教えている。アングロサクソン流の個人主義に染まらず、日本の古くからの価値を大事にすること。それが日本の強さの源泉でもあり、また優しさや豊かさの源泉でもあったのだ。日本人が日本人として有していた価値をもう一度見直しながら、本当に大切なものは何なのか、これを見出す必要がある。
この講演では、今後ますます日本が豊かに発展することを期待して、その話を終える。この後、日本は大東亜戦争に負けて、欧米の勝手な報復裁判(東京裁判)によって松岡はA級戦犯というレッテルを貼られた。その判決前に病死した松岡洋右は、今のこの情けない日本の姿を、一体どのような気持ちで見ていることだろうか。
松岡に限らず、この時代の人々の期待に全く添うことのできていない、今の日本の現状を、私は本当に情けなく、申し訳なく思う。
(ダイレクト出版で購入 550円)
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