「負けてたまるか!日本人」
作家の保坂正康氏と丹羽宇一郎氏の対談集。日本の歴史も含めて、幅広い分野での話がなされている。日本が戦ってきた戦争や、近代史に関しての話もしているのだが、その理解にはやや疑問もある。
明治以降、日本が戦ってきた戦争に対して、あまりにも短絡的な評価をしていて、もっと当時の国際情勢や時の政府の要人の動きなど、また国際的に戦争に追い込まれていく国の状況などの考察がなければ、戦争の理解は難しいだろう。
ある意味では、このような人たちも一応戦後の世代と言うことになるのだから戦争を本当の意味で俯瞰してみるのは難しいのかもしれない。
特に戦争に対しては丹羽氏は「とにかく絶対に戦争はするな」ということを繰り返し述べているのだが、「日本人の覚悟」とか「負けてたまるか、日本人」などと言うからには、最後は国を守るために戦う覚悟が必要なのだ、というのが私の意見である。
戦うと言っても必ずしも武器を取ってということではない、今は情報、経済、あらゆる分野での戦いが熾烈であり、それが全て国益に結びついているのだ。「超限戦」という考え方がすでに世界の常識なのだから、そのような認識なしで平和を唱えても意味はない。世界は戦いの坩堝だ。
このような覚悟が逆に戦争を防ぐことになるのであって、絶対戦争をしないという考え方は逆に戦争を誘発することがあるのである。かつて故小室直樹氏が「新戦争論」という本で「平和主義者が戦争を起こす」という逆説的なことを述べていたが、これが世界のリアリズムだと思うし、国民国家を前提に考えるとき、戦う覚悟がなければ国は守れないだろう。
戦う覚悟をするなどというと、すぐに戦争をやりたがっているとか、好戦的だなどという批判があるのだが、そこは全く違うのであって、この妙味がわからないようでは、本当は平和を語る資格もないと私は思っている。
国と国との関係のあり方は、個人と個人の関係のあり方とはまた別の力学が働いている。その違いを認識しなければ、戦争と平和についても理解ができないと思うのだ。
ただ、日本の国家の意思決定のありかたが、内にこもったワンチームでなされていることや、空気によって決定がなされて誰も責任をとらないこと、また日本は歴史的な資料などをすぐに処分したり燃やしたりすることの愚かさについて触れてある部分は、賛成できる。
若者には海外に出ることや、読書をすることを勧めている。それは日本を客観的に見るためにも、視野を広げるためにも必要なことであり、異論はない。
「この対話のベースには僕らの覚悟がある」
ということなのだが、何を覚悟したのかよくわからない内容ではあった。その意味で最近読んだ本では珍しく趣旨のはっきりしない本である。
戦後世代のトップを走る人たちの考えを知るにはいい本かもしれない。自分たちもまた、このあいまいな日本を生きているのだと。
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