「大事なものから捨てなさい」 中村メイコ
有名女優のエッセイ集。もう高齢であるが、このような人の率直な考えや経験を読むと参考になることがたくさんある。世の中の多くの高齢者も、色々な知恵を持っていると思うが、多くの人はそれを他人に伝えきれないで人生を終わっていく。
私はそれを大変もったいないことだと思っている。このように言葉にして書物にして残してくれると、一体どれだけの知恵の蓄積になるだろうか。
その意味では、高齢者と若者や子供たちの対話の場がもっとあるといいのにと思わざるを得ない。この本の題名からすると一見、断捨離のススメのような本なのかと思いきや、全く違う。人生の中で様々に出会うこと向き合うことについての、著者の率直な意見が述べられているのである。
例えば、健康診断について。70過ぎたらもうそのようなものは不要。自覚症状が出たときに病院に行き、末期がんだと知らされすぐに死んでいく。そのような死に方の方がいいのだという。数値の異常などを言われて薬を飲んだり、健康にばかり気を取らて通院を重ねたりして失うものの方が多いというわけだ。
私はこの意見に賛成だ。高齢になってからも過度に健康を気にしすぎずに自由に生きればいいと思う。検査だ薬だ、通院だとそれだけで残りの人生の時間を取られている高齢者は多いと思う。
ケセラセラ(なるようになる)というのが著者の信条のようだ。昭和の時代を生きた人々はこのようなおおらかな考えを持つ人が多い。確か石原慎太郎もよく「ケセラセラだ」と言っていた。今の時代、色々な細かいことがうるさくなり過ぎてせせこましい世の中だ。この時代の人々のおおらかで囚われのないスッキリ感は学ぶべきことが多いと思う(まあ人によって個人差はかなりあるが)。
この本の題名は、大事なものを最初に捨てることができれば、後のものを捨てるのは楽だということ。特に思い入れのあるものについては、なかなか捨てられないものだが、必要な思い出はしっかりと心に刻んで、物は残さないというのは必要な知恵である。
そのような片付けの話から、気楽に日々を生きるコツ、家族とも距離を取る、「老いの常識」にとらわれない、など。著者は、女優業をこなしながらも3人子供を育て、普通の主婦としての人生を送った人物だ。その意味で、普通の人間が年をとっていくたびに出会う様々な事柄に対して、多くのヒントが与えられていて中年層の人にも参考になる。
また学生を含めて若い人には、ある種の昭和のおおらかさやさっぱり感を学んでほしいと思う。私も近所の親しくしている高齢者が何人もいるが、彼らはみんな昭和の成功者たち。大きな企業で仕事をしたり、不動産を持っていたり、経済的にも成功している。もちろん企業ではかなりハードな仕事を成し遂げた人が多い。
彼らの仕事の話を聴いていると、今の時代のように他人のことをせこく批判したり、介入したり、細かいことにいちいちクレームをつけたりする人が少なかった社会を生きていたことがわかる。そのおおらかさ(ある種のいい加減さ)が社会の発展の原動力であったようにも思う。もちろんあの時代に帰ることはできないが、若い人はもっと昭和の精神に学んでもいいように思うのだ(小さなことを気にしすぎるのではないか)。
周りの人に対しておおらかで、自分に対してもおおらか。いい意味でいい加減に仕事をしたり、人付き合いをしたり。それで許し合いながら寛容な世界が形作られていた面もある。
それは社会が全て豊かになり右肩上がりに成長していた時代であったからだが、豊かさが先かおおらかさが先か、と言われれば、経済的に余裕がなく、生活に余裕がなく、自分にのことで精いっぱいだから現代は寛容になれないということはないはずだ。
実はおおらかさを失ってしまったことが、発展を阻害しているのではないか、とも思うのである。その意味では以前紹介した「国民の底意地の悪さが、日本経済低迷の元凶」という本の趣旨は正しいと感じる。
今はみんな他人の評価や他人の目を気にして、びくびくしながら生活しているような気がする。些細なことで目くじらを立てず、まあいいや、という対応でもっと自由に生きたらよい。まさに「ケセラセラ」である。
昭和というのは悪い意味で言われることが多い時代だが(確かに問題はあったのだが)、あの時代のいい加減さが根本にあれば、逆にどのようなことがあっても揺るがない心で、生きていけるのではないだろうか。
著者のような昭和の生き残り世代には、もっと長生きして情報を発信してもらいたい。たった一人の高齢者のなかには無数の知恵が集積されている。それが単純なスローガンではなく、ある種の生活の知恵や人生の知恵として表現され、学ばれ、若者に大切にされることを望みたい。
(BOOK OFFでクーポンを利用。5冊の新書を250円で購入。そのうちの1冊)
Share this content:
コメントを残す