鹿児島からの電話
東京に出て毎日を忙しく過ごしていた私に、大学時代好きだった後輩から電話がかかってきた。
実は卒業後も時々手紙で近況を報告しあってはいた。しかし電話は初めてだ。
彼女はまだ大学生で大学時代に一緒だったサークル活動も続けていた。
ただ周囲に自分の将来や考えている問題を相談できる人間がおらず、私に相談してきたのだった。
当時はメールや携帯電話もなかったから遠距離の通信も容易ではなかった。
彼女の話を聞いているうちに私の心の中にはある種の不安が芽生えた。
「その人を一人でも生きていけるような人にしてあげることが愛である」
という言葉が頭に思い浮かんだ。以前読んだ小説に書かれていた言葉だ。
彼女が自分の抱える問題を自分で解決していけるようになってほしいと思って、学生時代にたくさんのことを話してきた。自分の学んだ全てを彼女にぶつけた。私がいなくてもきっと様々な悩みを解決できるようになって欲しいと思った。
しかし実際はなかなか彼女のことを理解する人間が周囲におらず、彼女の心にはポッカリと穴が開いてしまっていたようだった。
電話の様子から彼女の心情が急速に私のほうに揺れ動いているのがわかった。
しかし、この距離はどうしようもない。
日常的に彼女にしてあげられることは何もない。
なんともいえない無力感に打たれて私は受話器を置いた。
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