自分の足りなさを実感する

自分の足りなさを実感する


間奏曲―フリーターの時代―その32


多くのフリーターは正社員としての就職を望んでいると言われる。
しかし、本当は心のどこかで「気楽なフリーター」を肯定している自分がいる面もあるだろう。特に若い時はそうかもしれない。そのまま自分の慣れた環境にいて、新しい世界に飛び込むことを恐れる自分が、きっといるのではないだろうか。

実は私にとっては、この時の面接がはじめてのフォーマルな面接だった。アルバイトの面接程度しか受けたことがなかった私だったから、スーツを着て面接すること自体が初めてだった(大学院の入試の時は面接があったかもしれないが)。


というのも、これまでは非常にざっくばらんな面接ばかりで、雑談のような面接しか経験のない私にとっては、きちんとスーツを着込んで「志望理由」や「自己PR」などを聞かれる面接は本当に初めてだったわけである。


色んな会社を受けたとはいっても、書類選考や筆記試験で落とされることばかりで、まだまともな面接はほとんど経験していなかった。


二次試験の面接は5人での集団面接だ。
他の受験者が非常に立派でしっかりしているように見えたのを今でもよく憶えている。
二次まで進むことができて私には欲が出てきていた。
内定したい。内定するかもしれない。
そう思うと緊張感が高まってきて、面接会場で待機しているときは頭が真っ白な状態になった。
「どうせまともな準備などしていないのだから、自分を正直に出そう」
それしか方法がなかった。


5人が面接室に呼ばれて面接が始まった。
入室の順番は私が一番。面接官に向かって一番右側の端の席だった。最初の質問がまず私に飛んできた。絶対に内定を勝ち取ってやる!!

集団面接だったせいか意外に落ち着いてた。
最初の質問は、典型的な志望理由というやつだ。
私は自分の学生時代の経験から、教育産業で仕事がしたいという気持ちを熱意を込めて語った。これについては嘘偽りなく話すことができたと思うし、自分でも悔いはなかった。


私の左隣の人物はこれまで営業の仕事をしていたということで、話もうまく、この人と比較されたら落とされるのではないかと不安になった。それはそうだろう。普通の人なら私と同じ年齢であれば、社会経験は6年ほどになる。その間私のように、好きな学問をやり、フリーター生活を送った人間と比較して、私に勝ち目はなかったと思う。


みんなきちんと準備してきていたようで、さらさらと澱みなく答えている。
私は正直、専門学校で専門的に教えることのできる知識が自分にあるのかは自信がなかった。ただ誰よりも勤勉に努力し、きっとプロになってやるという気持ちだけは持っていた。そしてフリーターの時に得た経験を学生たちにも分け与えたいと考えていた。教えるための知識などは、それがなければ学びながら教えればいいのである。


いま自分にないものは強がらずに人に教えてもらい、努力して身につければいい。
私は面接を通じて、そのような何でも努力してがんばる、という姿勢を強調し嘘や誇張した表現は一切使わなかった。


ただ自分の隣の営業マンのエピソードなどは正直聞いていて非常に勉強になった。自分も面接を受けているくせに、その隣の人の話に耳を傾け、感心してうなずいていたことを今でも憶えている。
面接は比較的短い時間で終了。


私は合格する自信はさすがになかった。隣の人物の存在感が大きすぎて比較にならないと思ったからである。


帰りの電車を待っているとき、その隣にいた営業マンの方と話をした。
「次の面接でまた会えたらいいですね」
そういって別れた。しかし、その人と会うことはもう二度となかった。

私はアルバイト以外に会社などできちんと働いたことはこれまでに一度もなかった。
二次試験の面接試験の際に自分の隣で営業経験を語る若者を見て、自分はまだまだ全くだめだと感じた。


面接の受け答えはもちろん、社会的な実績はゼロだったから、採用される余地はほとんどないとも思った。やはり教育の世界で、しかもビジネススクールのようなところで教育的な仕事をするには、一度サラリーマンとなりそれなりの仕事を経験すべきなんだろうか・・・しかしすでに28歳にもなっている、そう時間はない。


自分のこれからの人生がどのように展開していくのか、全く見えなくなりつつあったのである。
家庭教師や塾の仕事の経験はあったものの、それも経験したというレベルのもので、実績として誇れるものがあったわけではなかった。


私はこの頃、いつも同じような夢を見ていた。自分が必死に足を動かして走ろうとしているのに、全く前に進まない夢だ。私の心の中の潜在的な焦りを表現したのだと思う。


いつものように明るくアルバイトはこなしていたが、気持ちは晴れなかった。


そして一週間後、薄い封筒の通知が届いたのだ。

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投稿者:

山道 清和

日本の未来への発展と繁栄のために、日本の学生には自分から学び、考え、自分の意見を持つことのできる人材になって欲しいと心から願っています。就職や公務員試験に関する相談も受け付けています。遠慮なくどうぞ。

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