神戸の夏
東京の夏はとても暑かった。
田舎とは暑さの質が全く違う。
大学院に入学したその年の夏、私は神戸にいた。
大学時代に親友だったNが神戸で働いていたので、彼に会いに行ったのである。
その期間、日雇い労働者の生活を見た。
私はお金がなかったので、日雇い労働者が生活に使っている安い旅館(といってもとてもそんな代物ではなかったが)に宿泊したからだ。
このときほど自分の恵まれた境涯を実感したことはなかった。
この旅館はNがただ安いというだけで私に教えてくれたものだ。だから別に何の目的もなく、安いという理由だけでそこを選んだ。
部屋の広さは畳一畳。そこに布団がぽんと置いてあるだけだ。
宿泊料は一泊500円。
そこに泊まっているのはほとんどが日雇い労働者だった。宿泊しているというよりも、そこで生活している。
実に年配の人がやたらと多く、よぼよぼのおじいさんもいた。
その旅館にはグレードの高い部屋もあって、一泊2000円。
そこには日雇い労働者に仕事の仲介をしてピンはねしている男が泊まっていた。
私はそんな旅館に何泊もして色んな人に話を聞いたのだった。
毎日、毎食、インスタントラーメンを食べている初老の男性や毎日同じ服を着て、くたびれ果てた多くの労働者達。誰もお互いに口をきかない。
そこに学生である私がいることはいかにも不似合いだった。若い人間がほとんどいなかったからである。
Share this content:
コメントを残す