看護師になりたかった女の子
間奏曲―フリーターの時代―その21
私が勤めていた虎の門病院の病棟に、時々入院してくる女の子がいた。今でも名前も顔もはっきり憶えているのだが、Mちゃんとみんなから呼ばれていた。
私が最初にあった時から、すでに病院の看護師やお医者さんと仲がよかったから時々入院してきていて、すでに顔なじみだったのだろう。
この子の病名は、私は知らなかったし、それ自体は知っていたからとて何ができるわけでもなかった。ただ頭部が肥大化していて、顔も歪んでいた。おそらく普通に外で彼女を見たら、ぎょっとする人が多いに違いなかった。
そんな彼女と一度ゆっくりと話す機会があった。もはや手術などができるわけでもなく、自分の容姿がもとに戻るわけでもないことを知っていたのだろう。またこの病気が決して良くならないものであることも知っていたのだろう。
しかし、それでも彼女はなぜか、絶望しているようでもなく、特に暗いわけでもなかった。普通の女の子がそうするように、淡々と話をした。
彼女は、「自分がこんな病気にならなければ、人の世話をする仕事、そう看護師になりたかったんだ」と言っていた。
この時、嘆くわけでもなく、だからとて自分の不遇に同情を求めるようでもないものの言い方に、私はある種の尊敬を感じた。
彼女はなぜ、私にそのような話をしたのだろうか。彼女の話を聞いていて、私は自分の恵まれた環境を改めて振り返る機会を得た。
そしてこのように自分がやりたい仕事や希望があっても、そもそもその境遇がそれを許さない人間だってたくさんいるということを思い知らされた。残酷な現実がここにあった。
しかし、彼女が普通に、淡々とそれを語る姿を見て、自分でも言いしれない感情が沸き起こってきたことだけは、はっきりと憶えている。
しかしその感情が一体何だったのか、今でも筆舌に尽くしがたいのだ。
彼女とはこの時が最後の時となった。
私が病院を辞めて数年後のこと、彼女はこの世を去っていったのである。
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