「生きていくあなたへ」 日野原重明

「生きていくあなたへ」 日野原重明


生きていくあなたへ

著者はあまりにも有名な医師で、105歳という長寿を全うされただけでなく、可能な限り仕事に尽力され、天寿を全うされたかたである。多くの著書もあるから知っている人は多いと思うし、私のこれまで何冊か、著者の本は読んできた。

著者はあの「よど号ハイジャック事件」の際に、その飛行機に乗り合わせ、人質として4日間を過ごした経験の持ち主である。この時に、これからはいただいた命で、今後の人生は人のために尽力しようと決意されたのだという。

高齢になっても音楽の世界で指揮者をやったり、絵画を習ったりと様々な活動をしながら、医療の仕事にも従事されている。この本は、その著者の最後の言葉(インタビュ)をまとめられた本であり、特に最後の本人の言葉をほぼそのままに引用された部分は心を打つものがある。多くの経験と、多くの貢献と、多くの苦労やまた病気なども経験された著者の、その言葉はまさに「悟り」の言葉として感じられる。

著者はクリスチャンであり、信仰のある方だ。その意味では神や永遠というものにつながる人生観を持っておられて、透明感のある、しかし正直で実直な言葉は心に響く美しいものだ。

この本の中に「出会いと別れというものは一つのものだ」、という言葉があるように、まさに人生の妙味を知り尽くし、精一杯生きて、多くの人々に貢献されてきた著者の言葉は多くの人に教訓を残している。

この本は様々な人の悩みや疑問に答える形で語られているところもあり、自分の人生に対する大いなる指針として参考になることばかりである。この本の中に、新しいことを始めたり取り組んだりするときに、抵抗が起きたり反対が起きたときにどのように対処するべきかという質問がある。それに対する著者の答えはこうである。

「抵抗があってもそのような人々を無視するのではなく、遠くを見つめる、そして、僕はこう考える、と表明することが大切だ」「遠くを見る、表明する、そして実践する」

新たなことにチャレンジしようとする人にとって、まさに至言ではないだろうか。

また、医療従事者としての心得として次のようにも述べられている。

「患者さんを自分の家族だと思って接するということです。治療するときはいつも、もしこの人が自分の家族だったらどうするかな、と考えながら行動して欲しい」

この言葉を、全ての医療従事者に伝えたい。今、日本の医療は、利権やお金の泥沼の中で、心ある医者が少なくなってしまっているという現状がある。この数年のコロナ騒ぎの中での現場の従事者は必死に患者さんに向き合ってこられたと思うが、経営陣や自称専門家の人々は、現場を知らず、国民に寄り添うこともなく、自分の利益の赴くままに行動していた人間も少なくないことは事実だろう。自分の家族には決して施さないような治療や薬を、平然と実施、処方する医者も何と多いことだろうか(このような指向は政治家や役人も同じだが)。

医療の世界に、本来の美しき光をもたらすために、著者のような優れた医者が日本にたくさん生まれ、またそのような人が日本の医療の世界の在り方を決めていけるような立場になることを期待したいものだ。もちろん現場にいる人でさえこのような心掛けで仕事をすることは本当に難しいことではある。

この著者のように「働くことと生きること」が一体化した境地は、まさに私の理想でもある。これはまさに「自分に与えられた命という時間をどれだけ人のために使えるか」ということが働くということであり、そこには金銭の授受や地位や名誉など全く関係がない世界が広がっているはずだからである。

この著者が、医師としての信条にしておられた、ウイリアム・オスラーの言葉がある。

「医学とはサイエンス(科学)の上に成り立っているアート(芸術)である」

現代の日本の医者が、この言葉を聞いて、果たしてこの言葉の本質がつかめるだろうか。

(BOOK OFFにて110円で購入)

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投稿者:

山道 清和

日本の未来への発展と繁栄のために、日本の学生には自分から学び、考え、自分の意見を持つことのできる人材になって欲しいと心から願っています。就職や公務員試験に関する相談も受け付けています。遠慮なくどうぞ。

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