恋愛について(4)
この日は、彼女と映画を観て、喫茶店でお茶を飲み、居酒屋で飲んだ。最後は彼女の終バスに間に合うように見送った。しかし、この時に彼女と何を話したのかさえ、全く憶えていないところが、この恋愛の質を見事に表していた。
ただ、彼女と一日過ごせて幸せな気分だった。
その日のことをNに報告すると、Nは「それはかなりいい感じだ」という。私もNの話を聞いているうちにまんざらでもない気持ちになってきた(本当に単純だ)。
恋愛感情は、お互いの気持ちより周りの人間の色んな意見や感想に依存してエスカレートしていく。Nという煽動家は私の気持ちを盛り上げるのがうまかった。本当にいいやつだ。
ただあらゆる情報を自分に都合のいいように解釈するのは人間誰しも同じである。ましてや恋愛。致し方ない。
それ以降彼女とは1対1で会うことはなかったが、相変わらずサークルでは何度も顔を合わせた。
Nが私に言う。
「彼女に気持ちを伝えるべきだ。このままなら、このままだ」
確かにこのままでは、このままだ。
ただ誰もが感じるように告白して拒絶されたときの心理的打撃を恐れる気持ちが私にもあったし、拒絶された後、サークル活動がやりにくくなるのではという恐れが強かった。
まだ私にはサークルや周囲の人間に配慮する気持ちは残ってはいた。
ただこの配慮は私の保身からきているもので、周囲の人への思いやりによるものではなかった。
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