失いたくないもの
サークルに入部してきた1年生の女の子のことが気になって仕方がなくなってきていたことは先にも触れた。
恋愛感情であることはもちろん自分でよくわかっていた。
ただひとつだけ今までの恋愛と違ったことがある。
「好き」という感情が激しく自分の心に沸き起こってくるのではなく、彼女とずっと色んな話をして、自分が学んだことや経験していくことを「分かち合いたい」という気持ちだった。
その意味で今までの恋愛と違うことも自覚していた。
理性的な判断や知性的な考えが自分の中にはしっかりと存在していて、それでなおかつ感情としてはずっと一緒にいたい、という気持ちだったのである。
恋愛は感情からスタートするものだが、それだけでは終わらない予感が自分の中にはあった。
彼女に自分の気持ちを打ち明けようかどうか、正直非常に悩んだ。
彼女は普段のサークル活動の中においても、私の話をよく聞いてくれたし、お互いに自分の内面に関わる話はすることができた。
今以上に彼女と男女として付き合い、独占するようなことをする必要があるのかどうか。
またもし自分の気持ちを打ち明けてうまくいかなかった場合、「ふられた」などというありきたりの問題ではなく、貴重な話し相手を失うのではないか、という不安が私を非常に臆病にしていた。
私にとっては無二の友人であったNが同性の親友であったとすれば、彼女は異性の親友でもあった。
これ以上二人の距離を縮めようとする行為はある意味で自殺行為ではないのだろうか。そんな思いがある一方で、やはり恋愛感情であることは隠しようもなく、強力な引力も働くのだ。
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