ピアノに夢中になる

ショパンの会に入会してピアノを始めた。
何とか一曲でも弾けるようになりたい。なにせ教えてくれる人がいるのだからこの機会を活かさない手はない。
私の大学には、教育学部の学生のために練習用ピアノがたくさん置いてあるボックスがあった(これは今でも形が変わって存在しているはずだ)。もちろん空いていれば誰でも使用可能だった。
何の曲がいいだろうかとK君にきくと「ベートーベンのピアノソナタ月光、第一楽章」がいいという。
曲がゆっくりで素人でもついていけるということだった。
楽譜が読めない私は、音符のどれがピアノの鍵盤のどれにあたるかを教えてもらい、手に覚えさせる方法で練習した。そしてカセットテープでその曲を聴いて音を憶えた。音で聞いた音楽が自分の手によって再現される喜びはとても言い尽くせなかった。
少しでも曲になってくるとうれしくて毎日毎日練習に没頭した。
休日には一日中、ピアノの前にいたこともある。
今考えたらすごい集中力だった。
いい年齢になった今、とてもこのようなことはできないだろうと思う。
学生時代はひとつのことにわれを忘れて没頭する時期があったほうがいい。
全てを忘れて打ち込むもの。打ち込む時間。打ち込む場所。
そんなものが自分の支えになることがあるからだ。
私は今ピアノを弾かなくなったのだが、あの頃の旋律を私の手がしっかりと憶えてくれている(はずだ)。
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