「論語と算盤」渋沢栄一(守屋淳 訳)
あまりにも有名な本ではあるが、実際には渋沢栄一を知らない(知らなかった)という人は少なくない。
日本の明治期に様々な企業の創立や育成に関わり、偉大な貢献をした人物であるのに、あまり注目されなかったのはなぜだろうか。これほど現代につながる企業群に関わりを持っている人物は類を見ない。
「論語と算盤」は、20代のころに一度読んだことがあったが、この本からはあまりインパクトは受けなかった記憶がある。最近テレビドラマで取り上げられたことから、もう一度読み直してみたが、目新しさもなく印象に残ったところもなかった。
しかし、これはこの本の内容がよくないという意味ではない。その理由は簡単だ。普通に正しいことが書かれているからである。経済活動の中に倫理や社会的な正しさを入れていくこと、正しい商売を行うこと。これは当然正しい考え方である。自分だけの利益を考えずに社会全体の利益を考えて事業を行うことなど、正論としか言いようがない。
しかし、今の日本で、このような考え方の経済人がどれくらいいるだろうか。日本は間違った経済至上主義に侵されて、まさに「今だけ、金だけ、自分だけ」の世界がはびこっている。
日本には渋沢を待つまでもなく、昔から近江商人の三方良しの精神や石田梅岩の商人道、石門心学などがあって、正しい商人のありかた、正しい商売のありかたは教えられてきていた。素晴らしい資本主義の流れがすでに江戸時代からその底流には流れていたのだ。
それが、現代の資本主義の在り方はどうだろう。金融資本主義が幅を利かせ、多くの人がお金に人生を左右され、生き方を左右され、欲望を制御できずに翻弄され続けている。
渋沢栄一は、思想の人ではなく、実践の人であり、まさに「論語と算盤」を両立させた生き方をした人だ。きれいごとではなく、そのように生きることは難しい。その意味で、非常に価値ある先人であると言える。
だからこそ、学生にもこのような精神に学び、日本型の優れた資本主義を再興して欲しいものだと思う。営利や利益は必要なものである。しかし、それだけに走ることの問題点は、結局それが本当の意味で人間も社会も幸せにしないからではないだろうか。
その意味で、非常にわかりやすく書かれた、本当の資本主義のあり方を学ぶために、このような本は是非手に取って欲しい。
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