「政府はもう嘘をつけない」 堤未果
国際ジャーナリストの手による、世界の動きの本質を見抜くためのレッスンである。一貫した立場としては国際情勢や国内の状況において「お金の流れ」と「人事」を見る必要性を説いている。
今の世界は、グローバリズムと新自由主義の下で、全てがビジネスとして売買される時代である。お金には代えられない価値あるものを守るためにも、この強欲資本主義を動かし続ける、一部の富裕層たちの動きをしっかりと監視し、反対の行動をとっていかなければならない。
この本が出版されたのは2016年だが、政府はまだまだ嘘をつき続けているし、特に今回のコロナ騒ぎで、日本も見事に利用され、国際金融資本はさらに大もうけをしたわけである(というよりもそのように仕組まれたものだった)。そこに多額の無意味な金(100兆円ほど)を注ぎ続けた日本政府の愚かさはしかし、国民のインテリジェンスの弱さがその元凶だと言わざるをえない。
この本で取り上げられている、リーマンショックのアメリカでの後始末の件は、まさに政治家も結局はお金に負けて、逆らえないことを証明している。アメリカのオバマ政権が誕生したのは、金融資本と政治との関係を綺麗にするという「チェンジ」が標榜されていたが、そのオバマ政権は、これまでにないほどの最高額の寄付を国際金融資本から受けた。それによって、チェンジは全くなされるどころか、さらに事態は悪化したのである。アメリカも国家ごと金融資本に買われているのだ(この動きに歯止めをかけようとしたのがドナルド・トランプだ)。
日本の政治家もほとんどは同じで、結局は利権団体に逆らうことができずに、そのような団体に有利な政策を継続させ、全く国民の方を向いていない。このようなことはこれまでずっと続いてきたのだが、コロナによってその露骨な姿勢がより鮮明になった。もちろんそれでも全く気がついていない国民は多く、それによって政権は相変わらず安泰というわけだ。国民の目をふさぎ、利権団体とつるみながら都合のいい政策を継続する。これによって日本もすでに多くの資源が金融資本家に買われているのである。貧しくなった日本人が持つ、古くからの施設や土地が安い金額で外国資本に買いたたかれている(すでに北海道の土地は、その静岡県に匹敵する面積の土地が外国資本、特に中国に買われている)。日本は、アメリカと中国の草刈り場になっているという現実がある。
マスコミも結局はスポンサーの意向には逆らえないために、お金を出している人間が、いかようにも情報をゆがめ、また報道しない自由を行使して、事実を隠蔽することができる。金が全ての世界になりつつあるし、国民や若者も、その流れに飲み込まれようとしている。
全てが金とマーケットに支配される世界。これに対して、ずっと以前から警告をしていたのは、私が大学院で学んだ経済人類学者のカール・ポラニーではなかったか。全てが市場で取引される「悪魔のひきうす」(市場)に、人間の全てが飲み込まれてしまう危険性を察知し、ずっと以前からその警告は発信されていたのだと思う(ちなみにカール・ポラニーの「経済の文明史」などが日本で翻訳、出版されたのは1975年だ)。
ポラニーの「経済の文明史」の中には、非常に興味深い記述がある。それは「人間の動機には本来経済的な動機というものはない」という言葉だ。人間らしさという観点からいうと経済は手段であり、また本来は生活や社会の中に埋め込まれているもので、経済だけを対象にした動機は存在していないということだ。
人間の世界が全て市場の中に巻き込まれてしまえば、それはお金を持つ者の支配に変わる。全てが金銭のやり取りで処理される世界だ。日本の美しい自然も、文化も伝統も食も、金によって買われて取引され、やがてはその均一な世界の中で消滅させられてしまうことになるだろう。金だけにしか興味のない、強欲資本家は目に見えないものの価値など信じない。まさに「今だけ、金だけ、自分だけ」の世界を生きているからだ。
アメリカのウォール街などに巣食う彼らは、自分たちには不可能はない。まさに神のようだと自画自賛しているようだが、こんな人間の精神を失った変態に、世界や日本を牛耳られて、本当によいのだろうか。私たちは、これについて知り、行動を起こす必要があるのではないだろうか。
そのためには、まずこの著書で述べられているように、「お金」と「人事」によって世界で起きているものごとの背景や真意をしり、これを仕掛けている人間や組織がどのようなものなのかを知ることだ。もちろんすべてを自分で調べる必要はない。この本の著者のように、正しい情報を提供してくれる心あるジャーナリストは少なくないからだ。ただこのような人が、いわゆるオールドメディアに登場することはないから、著書などを通じて学ぶほかはない。
この本の最終章には、このような国際金融資本の謀略から国や地域を守ろうとしている人々の実例が紹介されている(アイスランドや日本の岡山市)。国家公務員や地方公務員は、まさにこのような仕事をして国民や住民を啓発し、巻き込んでいかなければならないのではないだろうか。
「政治に関心がない」「選挙は重要じゃない」という人がいるが、政治を放棄することは少数者による支配を許すことにつながる。
これは、第40代ウルグアイ大統領の言葉だ。日本人の政治的な無関心が、日本をますます悪くし、貧しくし、崩壊させようとしている事実を知る必要がある。私たちにはメディアに騙されない知性と教養を身につけ、民主主義の真の担い手となって、地域や国を守る義務があるのだ。自分たちの後に続く世代に、素晴らしき地域と国を残すことができるように。
「政府はもう嘘をつけない」。そんな世界を取り戻し、そんな日本を取り戻さなければならない。そのためには、一人一人の国民が「自分一人が学んでも、自分一人が行動しても」などといってあきらめず、この意識を広げてゆかなくてはならない。あなただけでは変えられないかもしれないが、あなたしか変えられないものでもあるからだ。
すべてがお金ではかられ、全てがお金で売買され、全てが一部の富豪によって支配される世界を、あなたは本当に望むだろうか。人間にとって真に価値あるものを知っているあなたであれば、これが人間にとって幸せをもたらす世界ではないことがわかるだろう。
大学生であれば、すでに選挙権はあるはずだ。まずはこれを放棄しないことから始めてみるといいだろう。そしてそれをきっかけにして、自分をとりまく社会、世界について、その背後や背景を探ることだ。もちろん「お金」や「人事」に注目しながら。
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