「ゼロコロナという病」 藤井聡 木村盛世
この本は、2021年7月に出版されているのだが、この本で主張されている考え方がいまだに(2023年1月)に通用してしまうくらいに進歩のない日本の政治、行政、専門家やマスコミの現状には正直うんざりしてしまう。
コロナについては流行当初はともかく、1年ほど経過したころにはその実態がある程度判明してきており、それを踏まえた柔軟な対策が可能だったと思うのだが、何度も同じことを繰り返して国民生活を不自由と困窮に追い込んでいったのが現実の日本の姿だった。
「ゼロコロナ」というものを追及するということに関しては、日本人がすでに平衡感覚やバランス感覚を失っており、何をやるにも過度で、極端な言動をとってしまうところに、それが表れていると思う。社会活動、地域活動、教育活動、経済活動。人間には人間らしく生きるための様々な活動がある。そのようなものを通して人間らしく生きられるのであるが、ウイルスをゼロにするために、あらゆることを自粛したり、極端な対策を行ったりすることは、社会国家に大きなマイナスをもたらした。
この本の著者2人は、ともに日本の中央官庁での仕事の経験がある人であるが、日本の官庁で働く公務員が、もはや国民の生活や幸せなどは度外視し、自分たちのルーティン業務や保身に走り、おかしいと思っていても何も変えられない惰性のままに行政が回っていることを証言している。国民の不便な生活や不幸が数多く引き起こされていても、自分の生活や日常性が壊されなければそれでいいと考えている悲しき公務員の姿が見えてくる。
もちろん現場の職員は上司の命令のもとで一生懸命に業務に励んでいる人も多いことはわかっているのだが、組織で出世すればするほどに失点を恐れその場からパージされることを恐れて保身に走る上層部の姿が目に浮かぶ。私の教え子たちには数多くの公務員がいるが、就職当初は自分なりの理想や貢献意識をもって就職しているのに、長年働いているうちにそのような初心を忘れ果てる人間が少なからずいるであろうことは、本当に残念に思う。
またこの本では、日本医師会などについても厳しい批判がなされている。医療の逼迫などの責任は基本的に医師会にもあるのにも関わらず、責任を国民や政府に押し付けて、上から目線でのメッセージを発信し続ける姿は、もはや愕然とするしかない。一部の素晴らしい医者を除けば(そのような人はマスコミには出ない)大方の医者にとって医療は金儲けのための手段にしか過ぎないのだろう。
政治家や専門家や医師会などの既得権益や利権をもつ人々が国の根幹を占めて、その政策を決めている限り、国民は自分で考え、情報を収集し、判断し、行動するしかないのである。その意味では、日本ではもはや本当の意味での公衆衛生という概念が失われてしまっている。戦後、社会や国家について真剣に考え議論することを怠ってきた国民の象徴が、まさに彼らなのかもしれない。
また私たちが、ウイルスの存在におびえ、過度に死を恐れる国民になったしまったことも、ゼロコロナという極端な動きに拍車をかけたことは事実だ。人間は古来、ウイルスとは共存してきた。時折「流行り病」があり、それに抵抗できなかった人が、一定割合で命を落としてきた現実がある(歴史小説などを読むとそのような話はよく出てくる)。今回で言えば高齢者や基礎疾患をもつ人々がそれにあたる。まずはそのような人を守ることを第一に考えながら、リスクの小さいそれ以外の人々の社会活動や経済活動は抑制すべきではなかったのだが、これもまた平衡感覚やバランス感覚を失った政策や対策が取られてきたことで、日本人は多くのものを失った。
この本では、日本人のこのような死生観にも触れられているが、根本の原因にはこのような価値観の問題が存在していたことは間違いない。このようなことを考えていくと戦後以降(本当はもう少し前から)、日本人の価値観や世界観に狂いが生じ(それを進歩だと思い込み)それに従って政治も行政も、教育も医療も、全てが変わってきてしまったのだろう。
ただ、空気で動く日本の悪しき習慣は、今回のコロナでもいかんなく発揮された。木村氏は統計やデータに基づくことなく、マスコミが作り出す空気によって政策決定されるこの国の現状を指摘している。「データと向き合わない」ということである。科学的根拠の薄い政策や対策が、自称専門家によって宣伝され、マスコミがそれに乗り(あるいはマスコミが仕掛けて)国民はそうして醸成されてきた空気の中で思考停止してきたのが、コロナ禍の現実だったと言っていいだろう。
この本の帯には木村氏が体験したテレビ局のコロナに対する姿勢(発言)が掲載されている。「コロナ、ガンガン煽りましょう」(テレビ朝日)こうして視聴率を稼ぎ、注目させる。日本のマスコミのほとんどがこのレベルであることを知って欲しい。彼らを絶対に信用してはならないということだ。
正直なところ、この現状を見て、私には失望と怒りしかなく、日本の国の将来に希望を見いだせないでいる。しかし、希望は与えられるべきものではなく、自ら作り出すものだとも思う。日本の現状の課題に多くの若者が気づき、自分のこととして行動してくれることを願って止まない。
私もまた、そのような活動を続けていくつもりである。
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