「いまこそ知りたい日本の思想家25人」 小川仁志
空海から始まり、吉本隆明に至るまでの日本の思想家?25人の基本的な思想を紹介した書籍だ。日本人は日本のことを知らない。今でも海外に憧れ、海外を模範とし、海外に追従するような考えを持つ人も多い。一方で、日本は素晴らしい、世界で一番誇れる国だと言って、そのマイナス面や欠点に目を向けない人もいる。
私は、基本的に自分は愛国者だと思うが、手放しに日本の国や歴史などの全てを肯定するつもりはない。しかし、日本人がいいものの悪いものも含めて、日本のことを本当はよく知らない、ということに関しては、もっと教育や啓蒙が必要だと思っている。正直に言って、中学や高校などで日本史を多少学んだくらいでは歴史の真実はわからないし、日本の文化や伝統の本質にも触れるべくもない。学校を卒業してからも、継続的に何らかの機会を設けて、学び続ける必要がある。そのための機会や材料は山ほど存在するはずだ。
日本の政治の行く末を左右する国会議員や地方議員、そして自治体の首長などにはに日本についての教養や知識の試験を課したいくらいだし、選挙権があり日本の主権者たる国民にも、最低限度の知識は選挙権の前提としてもいいのではないかと思う。
その意味では、日本の思想家は日本の基本的な考え方を象徴していると思うし、日本の歴史や社会や政治の在り方に影響を与えてきたわけだから、それを学ぶことは必要な教養と言えるだろう。
この本の内容そのものは、いい意味で欲張った形で多くの思想家を取り上げてあるために、一人の思想家に対して10ページくらいに記述量しかない。しかし、これでもここに取り上げられている思想家の思想を簡単に説明できる国民はほとんどいないはずだ。
結局、日本人が日本を知らないというのは、その地理や歴史や政治制度やそこに生きた人々活動してきた代表的人物のことを知らないということである。だからこそ、海外の影響をうまく取り入れることができずに、すっぽりと飲み込まれてしまうか、拒絶するかという極端な態度になりがちだ。
本当のナショナリストや、本当の国際人と言うのは、自分の国家の基本の上に取捨選択しながら海外から学べる人のことである。その意味で、本物のナショナリストと国際人は同じものだ。グローバリストは国籍のない人々のことで、今の世界のグローバリストとは、お金を中心に動いている人のことであり、それぞれの国の文化や価値観や歴史などには全く興味がない。お金を稼ぎやすい環境を作ることが目的である人々が現状のグローバリストである。お金を稼ぎやすいように国と国の障壁を取っ払うのが目的だからだ。
その意味で、大学などで、グローバルな人材なんて育ててはいけないのであって、いい意味でのナショナリスト、いい意味での国際人(先ほど私が述べたような意味での)を育てなければならない。そこには、自国に対する教養は必須のはずだ。英語ができればグローバルなどと言っているうちは、そこには教養のかけらも見出すことができない。
この本のような一般的な教養書でもいいから、時間をかけて読んで欲しいものだと思う。個人的にはこの本の最後に取り上げられている「吉本隆明」については、この人を思想家として扱うのは抵抗がある。学生時代に吉本氏の全集や著名な本を読んだのだが、果たしてこれが思想と呼べるほどのものかどうか。私にはまったく思想だとは思えなかった記憶がある。「共同幻想論」が有名で、私の大学院の指導教授とも対談などを出しているので、吉本氏の著作は一応読んだが、私にはピンとこなかったのである。たえず大衆の側からの視点で評論活動をしていたと言われる方だが、本当にそうだったのかは私にはわからなかった。
それでもこの25人のなかで、興味のある人の著作を直接読んでみれば、自分の考えや思考世界がまた広がることだろう。様々な観点から物事を見ていくために、そして何よりも日本と言う風土から生まれた様々な思想を知るために、このような一般書は活用していく価値がある。
日本人は一度、日本に帰る必要がある。そこから海外や外国の様々なものを眺めなおしてみることで、さらにその価値や意味が明確になると同時に、自分たちのアイデンティティを確認することにもなるはずだ。
(公立図書館で借りたので0円)
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